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漆黒堂

人生を無彩色で彩りたい。

科捜研の男

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きゃーーーーー!!

 「奥さんっ、どうされました!?」

白昼の住宅街に響き渡る悲鳴を聞きつけた男は、そこで立ちすくむ女性に理由を問う。

「お、重石、ドロドロ、黒い汁、い、いったい、どうすればいいのっ」

恐怖におののく女性はパニック状態であり、今は男の質問に答えられる状況では無さそうだ。このままでは埒が明かないので、他に目撃者は居ないものかと辺りを見渡したところ、隣の部屋で兄妹と思しき二人連れがうつむきながら震えているではないか。早速聞き取り調査を開始した。すると・・・

兄らしき少年:「一目見た瞬間にヤバいと感じました。これは見なかった事にした方が良さそうだと思い、そっと蓋を閉めたのは僕です。本当にごめんなさい!」

妹と思われる少女:「お兄ちゃんが、この事は絶対誰にも言うなよ!って怒るんだもん。だからワタシ、何も知らないよ。」

どうやら、勝手に触ってはならないと念を押していた筈なのに、我慢できなくなってコッソリ開けてしまったようだ。熟成まであと一ヶ月ほど待たなくてはならなかった、禁断の蓋を。

 

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一度開封した以上は仕方ない。重い石の下敷きとなっていた被害者の体液を採取し、犯人特定の為に科学捜査を急がなければなるまい。とりあえずルミノール反応は陰性を示したことから、この黒い汁が血液以外の液体である事だけは判明した。あとはDNA鑑定の結果を待つしかないようだ。

 

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続いて、ドロドロの遺留物について分析を開始した。するとどうだろう、腐敗しているのは外周部分だけであり、内部にまで影響していないことが判明したのだった。こ、これはひょっとすると、未だ生命活動が維持されているかも知れない! そうと分かれば原因の特定など後回しにし、先ずは救命活動が最優先だ。壊死した箇所と中身が混ざらないよう細心の注意を払い、決死の救助が開始されたのであった。

 

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おぉぉーーーーーーー!

その数分後、現場に大きな歓声が湧きおこった。な、なんと被害者の生存が確認されたのだ。無事と分かった瞬間、パニック状態の女、そして罪から解放された兄妹が一斉に男の方へ駆け寄っていく。てっきり喜びを分かち合うために熱い抱擁を交わすのだろうと両手を広げて待っていると、無情にも三人は男を突き飛ばして一目散に容器へダッシュするのであった。やり場のない男の両手は、そのまま自分を抱きしめる以外に術が無かったのは言うまでもない。男は静かに瞠目した。思わず目を背けたくなるような現実だけに。

 

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悲しみに暮れる男は当然ヤケ酒だ。

「・・・なんでぇ、べらんめいちくしょう。」

とりあえず、片言の江戸弁で怒りを表現しつつ、チビチビと焼味噌をなめなめ、日本酒をグビグビ。なめなめグビグビ、チビチビグイグイ・・・。

ぷはー、こりゃうめーや。何だかアツアツの炊き立て御飯に乗っけて食べたくなってきたなー。そういや、冷蔵庫にキュウリが入っていたっけ。それとも、もう一杯だけのんじゃおうかなー。

もはや犬にも劣る扱いなんて慣れっこだ。寂しさからの現実逃避などお茶の子さいさいである。私なんぞ、汗水たらして働いた御褒美に、ホンの僅かなお小遣いさえ頂ければ十分。同情するなら金をくれ! そのためならば、何時までもシッポをフリフリしようではないか。

そう、私は "下層犬" の男。